はじめに

一年前、夫が前立腺肥大の手術を受けました。手術後すぐに改善が見られるわけではなく、回復には個人差があります。前立腺の大きさだけでなく膀胱や神経の働きも影響するため、効果が出るまで1年以上かかる場合もあります。

夫の場合も回復には時間がかかりましたが、私が腎に関わる養生食を研究し、日々の食事に取り入れたこともあって、現在は問題無く改善しました。
同じ時期、私自身も還暦を前に頻尿に悩んでいましたが、腎を労わる薬膳を実践したところ、8か月ぐらいでほぼ完治しました。

薬膳の力を実感できたことは、15年前にルイボスティーで「偶然」花粉症が治まった時とは違い、改善までの過程や身体のサイクルを理解したうえでの体験だったため、より感慨深いものでした。
その経過を参考までに記録します。

発症から手術までの経過

夫は60代後半から手足の冷え、腰痛、だるさ、そして頻尿がひどく、一緒に出かけると1時間おきにトイレに行くこともありました。
昼食は職場の和食弁当、外食や中食は月に2回ほど、晩酌は毎日。泌尿器科で処方された薬では改善が見られず、中医学のクリニックで漢方治療に切り替えました。

最初は八味地黄丸補中益気湯を服用し、効果がなければ処方を変更。1〜2か月ごとに様子を見ながら、猪苓湯を2か月、五苓散も試しました。(八味地黄丸: 加齢による頻尿や排尿困難などに使われることが多い漢方薬です。牛車腎気丸: 八味地黄丸よりも温める力と利水作用が強く、冷えと下肢の痛みを伴う方に適しています。補中益気湯: 特に「だるさ」が強く、疲れやすいという気虚(エネルギー不足)の状態が顕著な場合に、体全体の活力を持ち上げるために用いられることがあります。五苓散は、水分代謝を整える働きがある漢方薬です。猪苓湯は清熱利水で体内の余分な水分を尿として排出し水湿を取り除きます。)

医療的対応

期間 治療・処方 結果
初期 泌尿器科で薬 効果なし
〜半年 中医クリニックで漢方(八味地黄丸→補中益気湯→猪苓湯→五苓散) どれも決め手なし
7か月 「薬では限界」と判断し手術 手術後も時間をかけて回復

前立腺肥大と東洋医学的考え方

前立腺肥大による排尿トラブルは腎(じん)に深く関わる病とされます。
冷えやだるさは腎陽(体を温める力)の不足=腎陽虚を示唆しています。

腎と他臓器との関係

臓器 主な機能 関連症状・影響

(消化吸収を司る臓器のことで脾臓ではありません)
消化吸収、気血生成、内臓を持ち上げる 脾気虚→だるさ、排尿力低下
気の流れを調える、情緒調整 肝気鬱結→排尿困難、残尿感
膀胱 尿の貯蔵と排出 湿熱・瘀血→炎症、血行不良、肥大

漢方医学的な病態と症状

病態 症状の傾向
腎陽虚(可能性大) 冷え、だるさ、腰膝痛、夜間頻尿
腎陰虚 ほてり、口渇、排尿時の熱感
脾気虚 強い疲れ、尿切れ不良
瘀血 血行不良によるしこり、排尿困難

 腎陽虚に効く食養生

元々食生活には、気を付けていましたが、本格的に症状に対する食養生に取り組みました。

腎を温める代表食材を使いました

食材 薬膳作用 取り入れ方例
海老 温腎壮陽・補気 ニンニクと炒め、スープ
ニラ 温腎壮陽・温中行気 炒め物、餃子
シナモン(桂皮) 強力な温裏作用 紅茶・ココアに少量
黒すりごま 補肝腎・補血 ご飯や和え物に
黒豆 補腎益精・利水 黒豆ご飯
ほたて 滋陰補腎・軟堅 蒸し物、スープ
健脾益気・補腎 蒸し栗ご飯
くるみ 補腎温肺・強腰膝 おやつ、サラダに

補気(活力を高める)食材

食材 作用 調理法
山芋・長芋 補気補腎 とろろ、味噌汁
鶏肉 代表的補気 スープ、煮込み
きのこ類 免疫力向上 味噌汁、煮物
人参 気を補い消化助け 根菜スープ

ご飯は黒豆と一緒に炊くなど、普段の献立に置き換えて摂取

女性の頻尿と私の食生活

私は、50代終わりの同時期に頻尿が始まりました。
更年期以降の頻尿は腎の衰えと女性ホルモンの変化が関わります。

女性の更年期と女性の出産後の頻尿の違い

特徴 50代・60代(更年期・加齢)の頻尿 出産直後・産後の頻尿
根本原因 腎の「精(生命力)」の衰え(経年劣化)。腎陽虚または腎陰虚が主体。 気血の過度な消耗外傷(出産時の出血や体力消耗、骨盤底筋への物理的ダメージ)。
関わる臓腑 の衰えに、肝(ストレス)心(精神不安)が複雑に絡む。 (エネルギー不足)と(精血の消耗)が主体。
治療の方向性 補腎(腎を補う)」が主軸。陽(温める力)か陰(潤い)を補い、精神状態を安定させる。 「補気血(気と血を補う)」と、緩んだ筋(骨盤底筋)を引き上げる治療を優先する。

夜間の頻尿は、元々ありませんでした。私は筋トレ歴が7年以上あり、骨盤底筋も鍛えていましたが、特に新しい運動はせず、前述した身体を温める食材と腎を養う食材を常に最優先して摂取していました。また、4毒抜きと言われる。小麦、乳製品、植物油、砂糖を抜く(減らす)食事法の実践にも挑戦していました。朝食は殆ど、ご飯で、お菓子は数年前からずっと米粉主義なので、パンも米粉が9割以上のものです。乳製品は外食するといろいろ付いてくるものですが、豆乳に置き換え、植物油は米粉を使っていますが、かなり減らしました。
例えば、ミンチ肉なら油無しで肉独自の脂だけで野菜炒めができます。鶏肉は、皮を下にしてソテーすれば、脂も出て使えますし、香ばしく美味しいです。茄子はグリルで焼き、白菜は、蒸します。砂糖は、牛丼などはみりんの甘味だけで作りました。ドレッシングは昔から味噌とレモン汁と酢にきび砂糖かステビアの葉を粉砕したものがあるのでそれを使っています。徹底しないと効果ゼロだという説もあります。そうでしょうか。細かく徹底するのはストレスで逆効果だと思い緩く心掛けています。

食養生の経過と効果

半年間は目立った効果なし → 8か月頃から体調改善を実感

夫:手術+食養生で約1年後に頻尿ほぼ解消

私:1年弱で頻尿100%解消

 山芋と山薬の違いに見る食薬と生薬の違い

食薬(食材)は生薬に比べて期待できる効能が薄いのですが、副作用が殆どありません。切った山芋で手が痒くなるくらいでしょうか。生薬の山薬をスープ調理時に直接入れて煮出す使い方もあります。

項目 山芋(食薬) 山薬(生薬)
定義 食用(生・加熱) 漢方薬原料(乾燥根茎)
目的 日常の滋養強壮、消化補助 治療・腎脾肺の補強
効能 穏やかな補腎、健脾益気 強力な補脾肺腎、固精止帯

まとめ

前立腺肥大は腎の衰えと深く関わる

腎を温める黒色食材・補気食材を意識的に摂取することで、
手術後の回復や女性の頻尿にも好影響。

家族で食生活を共有することで、家族全体の健康が底上げされる。

薬膳は即効性こそないものの、徹底すると半年〜1年単位で確実な変化を感じられる。
食養生を日常に取り入れることが、長期的な健康維持に役立つ。

何となく薬膳の効果が実感してきた、気付いたのは、8か月ぐらいしてからだと思います。私の頻尿の悩みは100パーセント解消されていました。
夫の前立腺の問題も徐々に手術の効果も出てきたのか一緒に外出先のトイレ問題もなくなりました。それは拍子抜けするぐらいでした。長く見積もって1年掛かりました。これが薬膳効果だと確信し、達成感で嬉しくなりました。
同居する家族は、食生活を共有するので、他人様の家族の様子のお話を伺っても似たような体質や病気になることが少なくないように思います。それは逆もしかり、皆さんが、食養生によって、家族が、元気共通になることを願っています。
(サムネイル写真は、北京のレストランでの宮廷料理の海老と野菜炒めです)